つい先日、当院を訪れたIさん(44才)は、二人目不妊を抱えた女性。病院では自然妊娠は無理といわれたものの、体外受精は望んでおらず、漢方で身体を改善したいと最初の面談でお話しされました。
しかし漢方を飲んだり、生活習慣を変えたりすることで、妊娠する力が上がったかどうかというのは数値で測るわけにはいきません。卵の成長には半年から12カ月かかりますし、体質改善は6カ月ぐらいが目安。でも、それ以前に結果が出る人もいれば、それ以上かかる人もいる。妊娠力というのは、その人の状況によって違うのです。
いつごろ妊娠できるのかと不安に思っているIさん。「時々、病院で血液検査をしたほうがいいでしょうか」とおっしゃいます。
卵の状態や卵巣の力を調べる血液検査には“AMH(抗ミュラー管ホルモン)”と“FSH(卵胞刺激ホルモン)”がありますが、AMHは卵があとどれぐらい残っているか調べる検査で、卵は年々減っていくものなので、体調によって数値が大きく変わることは基本的にはありません。ですから、変化を確認するための検査としては、AMHはあまり意味がないでしょう。
一方、卵巣機能の働きをあらわすFSHは、体調によって数値が変わることがあります。卵巣機能が働かないとFSHが脳からたくさん出るため、FSHの数値が高くなります。逆をいえばFSHが高いのは、卵巣機能の働きが悪いということ。変化が気になるのであれば、このFSHを時々、調べてみてもよいでしょう。
FSHが高いときは、漢方では“腎”の力を高める薬を処方し、生殖機能を活性化させます。その結果、FSHが下がる方もおられます。しかし、FSHは良い数値ではないけれど妊娠という結果が出る方もおられます。つまりあまり数値にばかりこだわる必要はなく、こだわることが逆にストレスになり妊娠から遠ざけているということもあります。
具体的に見えない漢方や生活習慣での身体の改善は、たとえてみれば受験勉強のようなものです。受験勉強というのは、いまの実力では目標に届かないけれど、いつか目標に到達する。つまり体を冷やさない、ストレスを発散する、早く寝る、栄養バランスをととのえる、漢方をしっかり飲む、定期的に鍼灸をする……、そういうことが卵巣を元気にする積み重ねとなって自分でも気がつかないうちに力がついていき、妊娠できる準備がととのっていくんですね。
悪い所ばかりに目を向けるのではなく、何となくでもいいから、よくなっているイメージを描きつつ、漢方養生できるといいですね、とIさんにもお伝えしました。